• ハーレーダビッドソンのビッグツインモデルが1958年のハイドラグライド登場まで採用していたリジッドフレーム。リジッド=硬い/曲がらないという名の通り、リアサスペンションを持たない構造のフレームである。
    一般的なモーターサイクリストにとっては信じがたいことだが、ハーレーダビッドソンマニアの中にはこのリジッドフレームを好む者が少なからず存在している。その最大の理由は、クラシカルでシンプル極まりないルックス。シンプルさゆえに車体は軽量かつコンパクトに仕上がり、スロットルを開けると沈み込んでダンピング効果を発揮するリアサスを持たないため、アクセルの開閉にリニアに反応するダイレクト感もリジッドフレームならではの魅力となる。
    人気の高いハーレーダビッドソンのビンテージモデル以外にも、欧米のパーツディストリビューターからは純正のレプリカやチョッパースタイルのリジッドフレームが数多くリリースされているが、ロードホッパーに採用される専用設計の日本製リジッドフレームは“乗りやすさ”と“耐久性”に徹底したこだわりが与えられている。 サスペンションによるショック吸収機能を持たないリジッドフレームで乗りやすさを確保するために重要なのが“しなり”。サスペンションの代わりにフレームがしなることで、走行時にかかる様々な応力を吸収するのである。このしなりを適切に与えるため、ロードホッパーの開発では様々な試行錯誤が繰り返された。 一般的にオートバイのフレームに使用されるパイプは、コストを重視した電縫管=ECパイプと呼ばれる板を丸めて溶接した材料を使用するが、ロードホッパーは炭素鋼による継ぎ目のない引き抜き材をφ38mm/31.8mm/28.6mm/25mmと計4種採用。剛性としなりを両立させながら、高い耐久性も確保している。 高品質なパイプであっても溶接した個所は硬くなるため、たとえばダウンチューブはステムヘッドからリアアクスルまでを一本のパイプでつなぐなど、1本のパイプ材をできる限り長くレイアウト。通常はストレートのシートポストをSベンドとするなど、コストを度外視した手間のかかる素材と設計によって、フレームに粘りと安定感を与えている。 もうひとつの特徴が“グースネック”。メインチューブを延長し、ダウンチューブの上端部を湾曲させることでヘッドパイプを前方に突き出したグースネックは、“ロー&ロング”を際立たせるチョッパー製作のオーソドックスな手法。木村信也が好んで採用したグースネックを採用することで、リアルな“ゼロスタイル”が具現化されている。


バンクする車体に合わせて狙った部分だけが効果的にしなる


しなることでタイヤが唐突に滑るのを緩和


肉厚や太さが違う数種類のパイプを計算して組み合わせる。


エンジンも剛性の要素として取り入れた設計

  • アメリカでも販売され浸透し始めたロードホッパーだが、ヨーロッパ進出にあたり課題とされたのが路面のコンディションだった。
    ご存知のように石畳の道路が多いヨーロッパ。同時にアウトバーンを始めとするハイウエイでは超高速巡航を強いられるため、リジッドフレームでは厳しいのではないか……その回答を得るためにリアサスペンションを持つフレームの開発がスタートした。 とはいえスイングアーム式の2本サスやモノサスでゼロスタイルのイメージを踏襲するのは難しい。そこでかつて四輪フォーミュラマシンに深く携わったエンジニアがそのノウハウをフィードバックし、リジッドフレームのシルエットを損なうことなくショックユニットを組み込める“マルチアームサスペンション”を開発した。
    一般的にホイールトラベルの軌道はスイングアームピボットを中心とした円周上であるのに対し、通常は一か所のスイングアームピボットを左右上下に分離するマルチアームサスペンションの場合、動きが非円軌道となるため最適なプログレッシブ効果が得られることで、スムーズな初期作動と高負荷時のトラクション性能を両立。ゼロスタイルを踏襲しながら路面コンディションや速度域を問わない優れた追従性を発揮するType9が誕生したのである。


複雑なリンクを介して短いスイングアームを作動させる。


リジットフレームに見えるサスペンション機構


エンジンも剛性の要素として取り入れた設計

  • かつて四輪フォーミュラマシンの開発を行っていたエンジニアが、そのノウハウをフィードバックして生み出されたのが、このマルチアームサスペンション。一般的なスイングアーム式は、ホイールトラベルの軌道がアームピボットを中心とした円周上にある。このシステムではピボットを複数に分離することにより、ホイールの動きは非円軌道となる。これにより最適なプログレッシブ効果が得られ、限られたホイールトラベルの中で初期作動のスムーズさと、高負荷時のトラクション性能を両立させる要点となる。しかし、それを理論どおりに機能させるには3次元のあらゆる方向からくる負荷への対応が必要であった。PLOTの技術力と意地を集結させ、膨大な開発時間を費やし、車体のねじれ剛性をも確保する事で実現させたのが、Type9のサスペンション機構だ。

  • ハーレーダビッドソンが1947年まで採用していたスプリンガーフォーク。スプリングとダンパーをインナー/アウターチューブに内蔵する現代のテレスコピックサスペンションに対し、剥き出しのスプリングをセットするフロントレッグとリジッドのリアレッグをリンクでつなぐスプリンガーフォークは、そのクラシカルな外観ゆえリジッドフレーム同様ハーレーマニアの間で人気の高いパーツである。 ロードホッパーの発売当初はアメリカ製のレプリカパーツを採用していたが、2009年4月に自社開発/日本製のスプリンガーフォークをリリース。2013年にさらなる改良を加えて現在に至る。 パイプはフレーム同様炭素鋼引き抜き材。リアレッグはスウェージングと呼ばれる叩きながら外径を絞っていく冷間鍛造技術によりテーパー状に加工したものをプレスによりベンドし、熱処理をして仕上げている。 フォークの先端で前後のレッグとホイールのアクスルを結ぶパーツはロッカーと呼ばれるが、通常のスプリンガーはレッグとロッカーをブッシュで支持するため、長期にわたる使用でかじってしまうという宿命があった。そのためこの部分にF1マシンの足回りでも使用されるスフェリカルベアリング=球面軸受けを採用することで、スムーズな動きと高耐久性を実現。さらに2013年のリニューアルで無給油式ベアリングを採用、グリスニップルを廃してメンテナンス性も向上した。 ブレーキングの際にサスが沈み込むテレスコピックフォークに対し、スプリンガーは逆に伸びる方向に作用するものも多いが、ブレーキキャリパーのマウントやトルクロッドの取り付け位置、上下スプリングのレートとプリロードを徹底的に解析することで、テレスコピック同様ブレーキを握ると沈み込むセッティングを実現。また、フロントレッグ上部のスライド軸に真鍮製のフリクションカラーを組み込むことで、ダンパー機能を持たないスプリンガーに適度な減衰効果を与えていることも、走行安定性に大きく寄与している。

    6本のスプリングとバンプラバーを最適なバランスで組み合わせた。縮み側にはギャップを踏んだ時の速い動きと、旋回中の遅い動きに対応するために2種類のスプリングをセット。バンプラバーもテストを繰り返して固さを決定

特注パイプを伸ばして鍛えて、肉厚も計算しながら整形していく。特注のスウェージングパイプをプレス機で必要な太さ・形状に整形し、適度な硬さになるよう熱処理。径が細い部分は肉厚にして強度を高めつつ、必要なしなりも狙うなど高度な設計がなされているのだ!


衝撃をしっかり受け止める剛性が求められるステムブラケットやロッカー部分には鍛造したスチールを使う。

F1トップチームとして君臨するヨーロッパメーカーが採用する“Minebea”
ダンパー代わりに減衰力を生む真鍮製フリクションカラー
  • 旧車やチョッパーに乗りなれたマニアならいざ知らず、これまで“普通のオートバイ”と付き合ってきたライダーにとって、リジッドフレームやスプリンガーフォーク、マルチアームサスペンションは未知の世界。「乗りづらいのでは」「危険ではないのか」という疑問が湧くのは当然のことだ。
    オーナーからの注文によりワンオフで製作されるカスタムマシンなら「乗りづらさやトラブルも味のうち」と割り切ることもできるだろうが、オートバイメーカーが作る量産車である以上、興味を持ったすべてのライダーたちが安心して走らせることができなければならないし、新車から末永く付き合える耐久性が求められることは言うまでもない。
    ビルダー木村信也の世界観を踏襲した“1940年代をイメージさせるネオクラシック”というコンセプトで開発が始まったロードホッパー。しかしいくらスタイリングが美しくても、乗りづらければ受け入れてもらえない。現行のオートバイにはないリジッドやスプリンガー、新たな機構のマルチアームサスペンションならではの楽しみを味わってもらうためには、不安や違和感といったネガティブな要素を可能な限り低減する必要がある。
    設計、素材、機械加工に対する膨大なトライアル&エラーと、膨大な距離のテストランを経て市販化されたロードホッパー。そのすべては、走らせたすべてのライダーから「楽しい」の声を聞くために。
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